Idée Capricieuses ~元イギリス大学日本担当官の気まぐれブログ~

元イギリス大学日本担当官のブログです。 イギリス留学やサセックス大学、大学のある街ブライトン、趣味であるHR/HMや留学中に体験した奇妙な経験など思いついたことを気まぐれのままに書いていくブログです。

イギリスの就活について~Graduate Visaでどう変わった?~

皆さん、こんにちは!

今日はイギリス大学卒業後に申請可能となった新システムGraduate Visaについてお話していきたいと思います。

Graduate Visaとは

留学をされた経験がある方であれば、一度は思い描くであろう留学先での就労経験ですが、Graduate Visaの発行が開始したおかげで導入以前に比べると、格段に現地就職のハードルがかなり下がりました。

Graduate Visaとは、2021年7月1日にイギリス政府が新たに導入した就労ビザです。このVisaの特徴としては、学位のついている大学コースを修了すると、基本的に誰でも申請→査証受領ができる点です。

Bachelor’s degree(学士号)またはMaster’s degree(修士号)を授与された卒業生はイギリスに最長2年間、Doctoral student(博士課程の学生)として大学院を修了された卒業生はイギリスに最長3年間滞在できるとのこと。

聞いた話では、Graduate Visa申請時に費用支払いといくつかの書類提出を行えばスムーズに進むとのことで、学生ビザ申請時の煩雑な手続きが無いのは楽で良いですね。

学生ビザを所有していないとGraduate Visaを申請できない点を見れば、Visaを新たに取得と言うよりも、元からあるVisaの切り替えに近い立ち位置だと思います。

※Visa専門家じゃないので、詳しいことは存じませんが・・・

Graduate Visaには以下のような特徴が挙げられます。

特徴
  • 卒業後2年間、イギリスに滞在できるようになった

  • フルタイム・パートタイム・ボランティア問わず就労可能になった

  • 就労条件としての最低年収が撤廃されたため、基本的にどんな仕事でも就けるようになった

以前の就労条件に比べると、かなり緩く設定されているため、導入前に留学された方にとっては羨ましい限りでしょう。(以前のイギリス国内の就労条件についても後で触れます)

フルタイム・パートタイムに加えて、ボランティアの就労も認められるので、条件に縛られることなく、就労経験を得る機会が大幅に増えました。

とまあ、Graduate Visaの魅力を色々と挙げてきましたが、実際のところはどうなのか?と皆さんは気になっていると思いますので、本稿では簡単なまとめとして書き残しておきます。

Graduate Visa導入前

今となってはご存じではない方も結構いらっしゃるかと思いますので、本編に入る前にGraduate Visa開始前のイギリス国内における就労条件について、簡単にお話していきたいと思います。

Graduate visa発行前のルールとしては↓ような感じです。

導入前の条件
  1. 学生ビザで滞在できる期間はコース修了後3か月のみ

  2. イギリス政府が認定しているVisa Sponsorshipの企業のみ就労可能

  3. 条件として最低年収約500万円以上のポジションのみ

まず、コース修了後の3か月の間に①求人募集に応募→②返信があれば日程調整・面接→③面接終了後の合否通知待ち→④無事合格できたら、雇用契約からの※Tier 2 General Visa(就労ビザ)申請を期限が切れるまでに全て終わらせる必要がありました。

※現在はSkilled Worker Visaと言う名称に変更され、就労条件もTier 2 General Visaよりも大幅に緩和された模様。ここではTier 2 General Visaについてのお話です。

求人への応募後にすぐに返信が来るわけではないですし、仮に面接までたどり着いたとしてもほとんどの企業は最低でも2回行うため、2回日程調整を行う必要がある+合否を待っている間に他の企業への応募+自分の希望する職種の検索など、やるべきことが非常に多い上に、英国内に滞在できる期間も短いため時間との勝負になっていました。

上記の過密スケジュールもそうですが、留学生が応募できる企業(Visa Sponsorship)やポジション数も非常に限られており、その少ないパイを他の留学生(当時のEU学生を除く)と取り合うことになるので、非常に倍率が高く激戦区でした。自分のやりたいお仕事を選り好みするのであれば、尚更ですね。

当時のお約束としては、求人を見つけたら、まずその企業が就労ビザ発行可能なVisa Sponsorship企業なのかどうかのチェックから始まります。

そして、たいていの企業・団体はVisa Sponsorshipではないので諦めて次の求人を探し始める流れまで鉄板です 笑

ようやくVisa Sponsorshipの求人を見つけたと思ったら、応募条件を満たせていないので、また振り出しに戻ると言った感じでした。

面接が上手く行かなかった・書類選考で落とされたうんぬんの話ではなく、単純に応募すらできません。この状況で卒業後3か月以内に就労は極めて困難だったと言えるでしょう。

そもそも当時年収約500万円以上のポジション自体がそんなに多くないこともイギリスでの就労の難しさに拍車をかけていたと思います。新卒・未経験であれば非常に困難です。

イギリスの市場では新卒採用と言うものがあまり多くなく、あったとしても新卒採用のポジションはほぼ国内のイギリス人学生向けですし、外国籍ポジションは即戦力の人材を重視する傾向です。

ご覧の通り、かなり制約があったため、Graduate visa導入前のイギリスでの就労は非常に困難でした。

既に社会人経験をある程度積んだ留学生でも現地就職はかなり苦戦していたので、未経験・新卒の方であれば、そのハードルは何倍にもなっていました。

このような状況だったため、新卒・中途採用問わず、Graduate Visa導入前(Tier 2 General Visa)はほとんどの方が日本に帰国されて就職されていたと思います。

Graduate Visa導入後

大学の学位を取得した後に申請できるGraduate Visaさえあれば、前述したような制約をほぼ全て取っ払った状態になるので、以前に比べると、現地就職は間違いなく簡単になりました。

少なくとも、条件にあった求人なら気軽に応募できるという点だけを考慮しても、就活中の精神的負担が以前とは段違いだと思います。

フルタイム・パートタイム・ボランティア問わず、空きさえあればどんな職種にも就労できるようになったため、選択肢の幅が非常に広くなったのはとても魅力的です。

大学として卒業生一人一人の卒業後のキャリアを追っているわけではありませんが、現地就職できた留学生のお話も最近ちらほら耳に挟みます。

見つけた求人を毎回Visa Sponsorshipかどうか確認する作業が不要になったので、効率と言う点で見ても非常に楽になりましたし、自分のやりたい仕事や職種も気兼ねなく応募できるようになり、求人探しの作業も格段に楽になりました。

どこでも就労できるルールを利用して、アルバイトやパートで生活費を稼ぎつつ、合間にフルタイムのお仕事を探すと言った方法も取れるようになりました。

現地就職の敷居は確かに大きく下がりましたが、とはいえ、パートやアルバイト、ボランティアはともかく、フルタイムとなると依然としてハードルは高めです。

決して、大学を卒業すれば簡単に正規雇用のお仕事に就労できると言った夢のようなシステムではないと断言できます。

現地のイギリス人ですら就職に苦戦しているのですから、留学生はより厳しい状況の中闘っていく必要があります。

イギリス各大学のキャリアセンターでもそのような説明を事前に受けると思います。

Graduate Visaによってどこでも応募・就職できるようになったとはいえ、それは全世界から来る留学生も同様ですし、条件が無くなったということは、現地の学生とも競争しなければならなくなったので※一般の正規雇用枠での倍率は高いです。

※ここで言う一般枠とは、国語である英語を除く、特定の言語の指定がない通常の求人を指します。

一方、バイリンガル向け求人だと※フランス語・中国語・アラビア語と言った、特定の国のみならず、他の国々でも使用されている汎用性の高い言語の話者が優遇されやすい傾向があります。

※例えば、フランス語だとフランスだけでなく、コンゴ共和国やルワンダ、モロッコ、カメルーンなどのアフリカ大陸の国々からカナダ、ベルギー、スイス、レバノンなど世界の様々な国で使用されており汎用性が高いです。

幸い、イギリスでは日本人(Japanese Speaker)向けポジションを募集している企業もたまに見かけます。

日本語話者の留学生の数が少ない+一般の求人に比べてそこまで倍率が高くないため、日本人向けポジションに特化して就職活動するほうが一般募集枠への応募に比べて、比較的成功しやすいかと思います。

もっとも、倍率が低めと言っても日本人向け求人は募集数もあまり多くないので、一般求人と日本人向け求人のどちらも同時並行で応募していくのがベストでしょうね。

そして、自分の強みや求人・業界に対する熱意、今まで培ってきた経験をよく理解・自己分析して、自分に合ったお仕事は何なのか細かく精査した上での就職活動の方が上手く行きやすいということは言うまでもないです。

数打てば当たる考えの元、場当たり的な就職活動ではよほど運がよくないと、イギリスでの正規雇用での就労は難しいと思います。

やるからには本気でやるべきです

注意点

Graduate Visaには大きなメリットがあるため、これから留学される方でイギリスでの就職を検討されている方はチャレンジしてみるといいですが、注意点もいくつかありますのでここに記載しておきます。

まず、Graduate Visaはあくまで2年のみ有効であって、Visaが失効すると基本的に現在付いているお仕事を退職または転職する必要があります。

言い換えれば、2年後に新たな就職活動をする必要がありますので、2年と言う限定的な就職になり、その業界や業種で充分な経験を得る前に退職・転職する可能性があるという事です。

この2年間と言う期限もGraduate Visaが有効になってから2年なので、実際の就労経験年数は2年を下回るケースが多いと思います。

と言うのも、申請する企業によって異なると思いますが、まず求人に応募する段階で"Are you eligible to work in the UK?"みたいな文言が記載されているパターンが多いかと思います。

これはイギリス国内で就労できる資格があるかどうかを問われているのですが、Graduate Visaを所有していない=Eligibleではないため、応募条件を満たしていないと同意義です。

そのため、Graduate Visaが手元にない状態だとそもそも応募不可です。

前述のルールと照らし合わせた場合、Graduate Visaが有効になってから応募できるようになると言う仕組み上、求人への応募→面接→採用決定→就労開始までの時間も2年間の期限に含まれており、実際の就労期間は2年を下回っているということです。

※ただし、面接→採用決定時に就労ビザの有無を確認する会社や応募→採用プロセスまではVisaが無くても進めてくれる企業・団体も一部あるかと思います。求人へ応募する前に企業ホームページまたは採用担当者に確認してみてください。

ちなみに、Graduate Visaで就職した企業がVisa Sponsorshipだった場合、Graduate VisaからSkilled Worker Visaに切り替えることによって長期の就労が可能になります。2年以上の滞在を希望する方はこのやり方が一番手っ取り早いでしょう。

また、Graduate Visa失効の際にVisa Sponsorship企業へ転職することができれば、Skilled Worker Visaへ切り替えるが可能です。

イギリス政府に認定されているLicensed Sponsor企業・団体は以下から閲覧できます。

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1160747/2023-06-05_-_Worker_and_Temporary_Worker.csv/previewassets.publishing.service.gov.uk

Graduate Visa終了後はSkilled Worker Visaを獲得しない限り、イギリスでの就労は認められません。そのため、Graduate Visa終了後の現地での就職活動はSkilled Worker Visaの条件下での就職活動が必要になります。

続いての注意点は、いわゆる正規留学で卒業し、イギリスの大学・大学院から学位(Degree)を授与されないと条件を満たさないため、交換留学生や短期留学プログラム(JYA)大学学部進学準備コースであるファウンデーションコース、大学院進学準備PMPコース、大学が提供する英語コース修了者(Pre-sessional英語コースやIntensive English)はこの制度の対象とはなりません。

Undergraduate、Postgraduate、PhD専攻生のみ申請可能です。

加えて、大学のコース終了後、イギリスを出国してしまうとイギリスに学生ビザ「Student visa」で再入国することが難しくなり、Graduate visaの申請資格がなくなってしまいます。

学生ビザの有効期限が切れてから入国すると観光ビザでの入国になり、切り替えができなくなりますのでご注意ください。

あくまでもイギリスの大学・大学院を卒業後、イギリス国内に留まり、就労または就職活動をすぐにはじめる方が対象となります。

Graduate Visa取得後であれば自由に行き来可能です。

補足ですが、学生ビザの期限が切れてしまった場合だと、現地にいようが居まいが問答無用で申請できなくなります。必ず期限が切れる前にGraduate visaを申請しましょう。

最後に言及しておくべき点はGraduate Visa申請→現地就職には多額の費用がかかってきます。

公式サイトによると、ビザ申請費用は£715(約128,000円、£1 = ¥178換算)かかり、更にImmigration Health Surchargeとして年間£624(約119,000円)支払う必要があるため、2年間有効なGraduate visa対象者は£1,248(約238,000円)、3年間有効なGraduate visa対象者は£1,872(約357,000円)の費用が必要です。

www.gov.uk

学士・修士修了者のGraduate Visa期間は2年のため、申請にかかる合計費用は£1,963(約352,000円)です。

家賃、食費、交通費などの現地での生活費に加えて、※Council Taxと呼ばれるいわゆる住民税や給与所得に応じたIncome Tax(所得税)の支払いも上乗せされるため、仕事を見つけた後も何かと費用がかかります。

※Council Taxは、外国人も含めたイギリスに住む18歳以上のすべての居住者に対して課される税金です。留学生は在学期間中のみ支払いが免除または減額されていますが、学生ビザ失効後は支払いの義務が発生します。Council Tax支払額は住んでいる住居資産価値によって異なります。一方、Income Taxは給与所得が発生するまでは支払い不要です。就労して給与を受領した時点で、給与額に応じた分の税金が差し引かれます。

そのため、現地就職を検討する際はある程度まとまった経費が必要なる点を頭に入れておきましょう。

まとめ

以上、イギリスでの就職活動についてまとめてみました!

Graduate Visaはイギリスでの就労を希望している留学生にとって非常に魅力的なシステムではありますが、その一方で、かかる費用や有効期間の短さなど欠点もいくつかあります。

個人的な意見ではありますが、自分のやりたい仕事の見つけやすさで言うと、留学生と言うバリューと英語が堪能と言うスキルが有効に作用する日本国内の就職のほうが有利だと思います。

新卒で就職される方は職務経験がないため、現地人・他国留学生も含めた他の候補者との差別化がどうしても難しく、いかに自分がそのポジションにマッチしているかを上手くアピールできるかが現地就職のキーポイントになるでしょう。

一方、業界によるかと思いますが、社会人の方であれば、自身の経験のある分野だとすんなりと現地企業からオファーを貰えることもよくあります。

これは募集の段階で必須条件として「XXX業界でYYYとして5年以上勤務経験+日本語話者+統計学のバックグラウンド etc」 などのような非常に限られた人のみを対象にした求人になるケースが多く、条件を満たしている申請者数が元々少ないため、倍率的に有利になりやすいからです。

イギリスの市場自体が即戦力を求める傾向が強いので、特定のバックグラウンド・職務経験を既にお持ちの方は上記のようなポジションを積極的に狙ってみると良いでしょう。

結局のところ、就職活動はその時の運やタイミングも絡んできますし、面接や書類選考で落とされることもあるかと思いますが、粘り強く応募しつづける根気強さも重要なポイントだと思います。


ただし、時にはキッパリと現地就職を諦めることも大切です。

一見、矛盾しているように聞こえますが、状況が良くないと思ったら撤退する覚悟と決断力、判断力、など柔軟的な考え方が必要でしょう。

意地を張ってダラダラ続けることと正しい状況判断による撤退は違います。
撤退も戦略の内ですからね。

出典: ジョジョの奇妙な冒険 ©荒木飛呂彦/集英社

卒業して一年間ずっと就職活動しているにもかかわらず正規雇用の仕事が見つからないが、どうしてもイギリスで就労・滞在したいので諦めきれない!という感じでズルズル引っ張られるケースが一番よろしくないと思います。

極端な話、就職活動で一年経過したらGraduate Visaの有効期限は残り一年しかなく、①残りの一年では十分な経験を得ることが難しく、1年の職歴では転職の際にあまり有効ではない(試用期間除けば9か月かそれ以下)、②在留期間がたった一年しかない人材をわざわざ正規で雇う企業は少ない、というのが主な理由として挙げられます。

卒業後に現地での就職活動を検討されている方は、万が一失敗した時のことも予め予想しておき、どうやって自分の就活を進めていくのか?いつまでに仕事が見当たらなかったときにどうするのか?など、事前に計画しておくことを推奨します。

ちょっと長くなってしまいましたが、今週はここまで!